深夜、静寂だけが部屋を支配する。私は薄衣を脱ぎ捨て、鏡の前で独り、その小瓶と対峙する。
「誘惑の雫」
蓋を開けた瞬間、溢れ出すのは抗えない情欲の香り。一滴。たったそれだけを指先に受け、熱を帯びた項(うなじ)から鎖骨の窪みへと、ゆっくりと這わせていく。
肌に触れた瞬間の、ひやりとした刺激。けれど、それはすぐに私の体温に侵食され、じわりと濡れたような熱に変わる。指先がなぞった跡を、見えない誰かの舌が追ってくるような錯覚。背筋を駆け抜ける戦慄に、思わず喉の奥で小さな吐息が漏れた。
この雫は、理性の薄皮を一歩ずつ剥ぎ取っていく。
鼻腔を突く甘美な毒は、血流に乗って全身を巡り、肌の奥底に眠る「女」を呼び覚ます。自分の指で、雫が馴染んだ場所を弄ってみる。しっとりと吸い付くような肌の質感が、狂おしいほどに生々しい。
鏡に映る私は、潤んだ瞳で自分を誘惑している。
他人の指先よりも、この一滴の方がずっと深く私を暴き、愛してくれる。
それは、一度肌に落とせば最後、夜が明けるまで逃れられない、悦楽の呪縛。

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